2022.2.9

「『長尺の目』を持ち京都で楽しく賢く暮らす知恵」
京都大学名誉教授・
京都大学レジリエンス 実践ユニット特任教授
鎌田 浩毅 氏

私の専門である地球科学の世界では、物事を「長尺の目」で捉える。「時間」と「距離」、二つの尺度を長くとると、違うものがみえてくる。

地球の温暖化も長い時間軸でみると、ごく最近の話だ。最初の人類が誕生した約700万年前、人類はむしろ、氷河期をどう生き延びるかを考えていた。火山の大噴火が起こるたびに、地球の気温が低下したからだ。細かな火山灰は長期間にわたって世界中を巡り、太陽光を遮る。現在の温暖化は、20世紀の後半に巨大噴火が異常に少なかったせいでもある。どこかで火山の大噴火が起これば、寒冷化に転じるかもしれない。

距離的視点では、巨大噴火が起こって地球が冷えると、火山から遠く離れた地域にも影響が及ぶことになる。1991年にはフィリピンのピナトゥボ火山が噴火した影響で、日本は冷夏になり、タイ米を緊急輸入するほどコメが不作になった。

時間的にも距離的にも「長尺の目」で物事を捉えて、異変に備えることが大切だと思う。

人類は1万年前に農業を「発明」し、氷河期に備えて食料を蓄えるようになった。食料(富)の蓄積が、貧富の差を生んだ。富を独占する権力者が出現し、やがて都市が形成された。産業革命以降は、石油や石炭を燃やしてエネルギーを大量消費し、人類社会は膨張の一途をたどった。

だが、今は持続可能な暮らしを目指そうという声が高まっている。貯めこみ、膨張し続けてきたストック型文明から脱却し、フロー型文明へシフトしていかなければならない。

京都は、そのロールモデルになり得ると私は考えている。京都がフロー型でつくられている都市だからだ。たくさんの人が京都にやってきて学んだり、企業を立ち上げたりする。京都で学んだ多くの人材が他の地域へ行って活躍し、企業の製品や知恵が世界中へ発信される。人や物のフローが京都の強い発信力を生み、それがまた新たな人や情報を呼び込む。1200年間、都であり続けた京都の人々は、文化、伝統、歴史を大切にして生きてきた。その土壌で育まれた精神的な豊かさが魅力となって、フロー型の都市をつくりあげているのだと思う。

この素晴らしい京都で、「長尺の目」をもちながら、楽しく賢く、生きていただきたい。

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