2023.7.26

「うつと職場環境の関係性」
杉本医院からすまメンタルクリニック 副院長
京都府立医科大学大学院医学研究科 神機能病態学 客員講師
阿部 能成 氏

近年、うつ病の患者が増えている。症状として、「ゆううつ」「イライラする」など気分の不調や「頭が痛い」「眠れない」といった身体の不調が現われる。ありふれた症状でも、程度が強く、長期間つづく場合には、うつ病と診断される。

原因には、内因、外因、心因の三つが考えられる。内因とは、精神疾患になりやすい素養をいう。外因とは、感染症や甲状腺機能の病気などの影響をいう。心因とは、親しい人の死や職場でのトラブルなど環境的な原因のことだ。複数の要因が絡まり合っているケースもある。最近はとくに心因の影響が大きいうつ病患者が多い。

働く人に多いのが、個人的な要因と職場環境の要因のミスマッチがあり、神経をすり減らしてうつを発症するケースだ。この場合は、まず休職して休養する。さらには「リワーク」(精神科リハビリテーション)が必要になる。模擬オフィスに模擬出勤するような手法も使い、働ける状態になったら復職する。ただし、職場環境が心因になっている場合、抗うつ薬は対症療法にしかならない。回復には、職場環境の調整が不可欠になる。

働く人のメンタルヘルスを考えた組織をつくるには、「心理的安全性」への配慮と「対話」が重要だ。心理的安全性とは、率直に発言し、懸念や疑問やアイデアを話すことによる対人関係のリスクを、人々が安心してとれる環境をいう。心理的安全性が確保されていない職場では、上司の叱責が怖くて社員はミスをしても報告できない、失敗しているプロジェクトをやめようと誰も言い出せず不採算事業が走り続ける、といった悲劇が起こってしまう。業務が本人の能力に見合っていない場合も、単に業績基準(ノルマなど)を下げれば心理的安全性が確保されるわけではない。

心理的安全性の高い職場を実現するために最も大切なのは、リーダーの働きかけだと思う。皆で発言し合える雰囲気をつくる、完璧でないことを謙虚に認め合う、逆に違反行為には毅然と対応する。こういうメリハリのある対応をしていくことによって、社員が建設的に議論し、対話できる土台がつくられる。

生産年齢人口が減少し続ける日本においては、一人ひとりに本領を発揮してもらえる、心理的安全性を確保した組織づくりがますます重要になると考えている。

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