オックスフォード大学では「日本学」を専攻した。私は経済が好きで、当時、世界一の経済成長率を誇り、世界第2位の経済大国になった日本の戦後の発展に興味があったからだ。
お茶を学んできたので、昔から京都と多少の関わりはあった。漆塗り・彩色・飾り金具の修理を手がける小西美術工藝社に入ってからは、伝統産業にも関わるようになった。
菅(義偉)さんが官房長官の時に、日本の観光戦略を議論する会議のメンバーになり、それをきっかけに観光について猛勉強をして本も書いた。インバウンド戦略と伝統産業に関わることを通じて、京都との関わりはますます深くなっている。
観光資源のメインは文化や文化財であって、京都の魅力もまさにそこにある、とよくいわれる。だが本当にそうなのか。元アナリストの私は、正確なデータ分析を基軸に考える。例えば、韓国人は買い物と食べ物が好きで、フランス人は文化財が好きといわれるが、滞在期間に大きな違いがある。同じ滞在時間に換算すれば、より多くの時間を費やす興味の対象に大差はない。
データによると、京都に来た人が文化財を訪れる時間は一日の3~4割とされる。文化や文化財は魅力の一つにすぎないのだ。最も時間を費やしているのが「食事」だ。京都には和食以外にも、フレンチやイタリアンなど、バラエティに富んだ食が揃っている。外国人が和食を求めていると決めつけるのもおかしいし、和食を勧めるだけではもったいない。美味しくて多様な食を楽しめるのも、京都の魅力だからだ。
さらに、京都の最大の魅力は「町と山」だろう。庭の散策や、町なかを流れる鴨川沿いの散策など、自然と調和した町の風情に多くの観光客は魅力を感じるようだ。参拝した後、山を歩いて自然を満喫できる伏見稲荷も外国人に大人気だ。町がコンパクトで、ぶらぶら歩きや自転車で移動しやすい点も京都の魅力として捉えられている。
今後、日本の生産年齢人口はどんどん減っていく。それは日本経済全体の衰退につながる。京都の充実したインフラの稼働率が、外部からの来訪者によって保たれている点も忘れてはならない。多様性のある京都という町の魅力を徹底的に分析して、インバウンド戦略を含め、京都の経済発展に活かしていくことが大切だと思う。
スピーカープロフィール

デービッド・アトキンソン 氏
㈱小西美術工藝社
代表取締役社長元ゴールドマン・サックス証券
金融調査室長
オックスフォード大学(日本学専攻)卒業後、大手コンサルタント会社や証券会社を経て、1992年ゴールドマン・サックス証券会社入社。当時誰も把握できなかった大手銀行の不良債権問題をいち早く指摘し、銀行再編の契機を作られた。同社取締役を経てパートナー(共同出資者)となるが、2007年退社。2009年に創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社入社、取締役に就任。2011年代表取締役会長兼社長、2014年に代表取締役社長に就任し現在に至る。2006年に茶名「宗真(そうしん)」を拝受。日本の伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けておられる。