人間は自然と対話する能力があるので、皆様には自然が多く残された京都で その能力を発揮してもらいたいと思います。昨年、鳥の声の研究者の鈴木俊貴君と一緒に本を出しました。私はゴリラの立場になってゴリラと鳥の会話をやってみた。鳥は会話能力があることがわかり、人間の会話に一番近い能力を持った動物です。人間に近いゴリラ、チンパンジー、鳥の進化の歴史をみるとよくわかる。6500万年前白亜紀の終わりは、恐竜が絶滅し、脅かされていた哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類などの動物たちが発展をし始めた大転機なのです。これらがコミュニケーションを駆使し繁栄をし始め、恐竜の残党から免れるために霊長類は木の上に住処を求めた。木の上の昼の世界を支配する鳥と夜の世界のこうもりの2動物のコンペティターには三次元を支配する羽があり、羽のない霊長類はコミュニケーション力をつけ、空を飛ぶことを諦め身体を頑丈に大きくした。猿や類人猿は、テリトリーなく自由に行動する鳥と違い、相手が見えているテリトリーでのコミュニケーションに限定されるので鳥も猿も鳴くことは、三次元で生き抜くために発達したコミュニケーション力なのです。人間は立って歩くことができる。自由になる手でモノを仲間の所に運ぶ事ができ、類人猿が進出していない草原へ進出し、フルーツのない乾季に遠くに移動して食べ物を得ることが出来、そのためにも二足歩行が発達しました。
歌と踊りが生まれた時期は二足歩行をし出した時だと思う。声と身体を同調させることによって相手を信用できるようになった。これが人間社会の始まりです。二足歩行により視点が上がり、上半身と下半身を動かすしぐさができるようになったことは人類の進化の隠された秘密です。言葉は7万年から10万年前に生まれた。リズムはアナログ、言葉はデジタルで、言葉は音がつながって意味が出て来る。一方、音楽は音の流れで、身体の動きも流れで作られているので、音楽と身体の動きは同じ流れの中にある。現代は動きや流れが忘れ去られて行き、デジタルな意味だけで交わされる言葉に大きく依存した暮らしを設計しようとしている。言葉は肉声で喋り、ジェスチャーが加わることによって自分の気持ちを相手に伝えることができる。
私はアフリカでゴリラと暮らしていた時、ゴリラが何かを察したことが私にもわかった。我々は自然の中で自然のバロメーターに沿って生きてきた長い歴史があるが、現代ではSNSの画面の中のシグナルだけに頼って暮らすようになってしまっている。もっと身体を活躍させ、自然の動きに同調させて暮らさないと健康が維持できないかもしれない。自然の動きを取り入れた茶道は日本が誇る道だと思う。私たちもそれを見習いながら、京都という自然あふれる土地で自然の動きに耳をそばだて身体を感じさせながら生きていきたいと思っています。
スピーカープロフィール

山極 壽一 氏
総合地球環境学研究所 所長
1952年東京都生まれ。京都大学理学部をご卒業。同大学院理学研究科博士後期課程単位を取得後退学。ルワンダ共和国カリソケ研究センター客員研究員。日本モンキーセンター研究員、京都大学霊長類研究助手、京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長、理学部長を経て、2020年まで第26代京都大学総長。人類進化論専攻。屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地で野生ゴリラの社会生態学的研究に従事。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長、総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任される。現在、総合地球環境学研究所所長、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)シニアアドバイザーをお務めです。南方熊楠賞、アカデミア賞受賞。「人生で大事なことはみんなゴリラから教わった」「猿声人語」など、数々の著書を発刊される。