例会プログラム

例会報告

「消費者法制度のパラダイムシフト」~『脆弱な消費者』ではなく『消費者の脆弱性』に着目する~】

2025年08月20日

スピーカー: 消費者庁審議官   黒木 理恵 氏

従来の消費者契約法は、「情報力や交渉力の格差を是正すれば消費者は合理的に判断できる」という考え方を基盤としています。しかしながら、現代社会の変化、デジタル化に伴って、時代にあわなくなり、限界があります。

例えば、オンラインでの「ダークパターンの拡大」(消費者が気づかない間に不利な判断・意思決定をするよう誘導するもの)や、ターゲティング広告など、その人が必要としている商品・サービスの販売を促す「取引環境の個別化」です。具体的には、(ユーザーに緊急性や限定感を与え、購買意欲を高める)カウントダウンタイマー広告で消費者を焦らせたり、ゲームに夢中になっている子どもに次々と高額課金アイテムを紹介したりすることができるようになっています。

現代社会は消費者の力を弱めたり、危害にさらされやすくなる状態が急速に拡大していると言えます。今の法律はデジタルの特性をうまくとらえられていません。

では、どうするのか。

強い個人が自由に意思決定することで社会がうまくいく、幸福になるという近代法的な考え方から、消費者なら誰もが多様な判断の揺らぎ(脆弱性)を持っているという認識を消費者法制度の基盤にする、そんな根本的な転換が必要です。消費者の脆弱性とは、「認知バイアス」(例:臓器提供のデフォルト設定による承諾率の違い)や「状況的脆弱性」(例:焦りや睡眠不足による)などです。「消費者が安心・安全に取引に関われる環境を整備する」という、新たな役割を明確に位置づければ、今までできなかった壁を乗り越えることができると考えています。

「他者からの干渉・介入がなければ自由に決定できる」という近代法のとらえ方ではなく、「他者との適切な関係性の中で『選択の自主性』を保護するアプローチ」へ。今後1~2年をかけて、「自律的な意思決定の確保」、「深刻な結果の回避」、そして「事業者が消費者の脆弱性を意図的に利用する行為の規制」という観点から、新たな法制度の検討を進めていきます。

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