
日本に西洋医学を導入した緒方洪庵先生は「世のため、人のため、道のため」と言われた。私はこの言葉をいつも医学生たちに伝えてきた。さらに大阪大学の前身・大阪医学校の第1外科の最初の教授はドイツ人だった。その教授の植えつけた、イノベーションを起こすDNAも私たちは受け継いでいると考えている。
私は、心臓手術をより低侵襲にし、重症心不全で苦しむ人をどうやって助けるかに専念して、心臓外科を発展させることを目指してきた。
手術室でカテーテルも用いるハイブリッド手術、カテーテルを使う大動脈弁置換術は今やスタンダードになっている。イノベーションの積み重ねが心臓外科全体を向上させてきたと思う。
心不全の治療については1999年、脳死で心臓移植の一例目となった手術が成功した。心臓移植も増えてはきたが、必要な件数には程遠い。
助かる命をまだまだ助けられていないという思いもあり、2000年頃から再生医療の研究をスタートした。2008 年には山中伸弥先生と出会い、共同研究を始めた。2012年、ブタの心筋梗塞モデルにヒトのiPS細胞から作った心筋シートを貼り付けると心臓の機能が上がることを、世界で初めて報告することができた。
山中先生のノーベル賞受賞を機に、この分野の研究に拍車がかかり、iPS心筋シートの作製へとつながった。これは再現性のあるサイエンスだ。2020年に8人の患者さんを治療し、全員が元気になった。このデータをもとに、来春には再生医療製品として承認を得られるかと思う。iPS細胞ができてから約18 年。患者に届く新しい治療法として考える段階を迎えつつある。
私は運が良かったが、日本では科学の社会実装が進みにくい。そこで大阪の中之島に2年前、「中之島クロス」という再生医療拠点が誕生した。研究開発をする部分と、それを臨床応用するメディカルの部分を兼ね備えて、一つ屋根の下でアカデミアシーズを社会実装しようとしている。
スピーカープロフィール

澤 芳樹氏
大阪けいさつ病院 院長
大阪大学 名誉教授、大阪けいさつ病院 院長 昭和55年大阪大学医学部ご卒業後、大阪大学医学部第一外科入局、平成元年フンボルト財団奨学生としてドイツMax‐Planck研究所心臓生理学部門、心臓外科部門に留学、その後、平成18年大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管・呼吸器外科(第一外科)主任教授、平成23年内閣府医療イノベーション推進室次長、平成24年京都大学iPS細胞研究所特任教授、平成27年一般社団法人日本再生医療学会理事長等を歴任され、現在は、上記所属の他に大阪大学院医学系研究科未来医療学寄附講座特任教授・社会医療法人大阪国際メディカル&サイエンスセンター理事長等を兼任されておられます。専門分野は外科学、心臓血管外科学、遺伝子治療、再生医療等で、世界で初めて心筋細胞シートの手術をされ、万博ではiPS心臓を展示されました。