
「50年後、100年後の日本において、私たちは本当に『美しい故郷』に住み続けているのだろうか。人の移動手段が車に依存し、公共交通が赤字を理由に切り捨てられていく現状は、先進国家として望ましい姿なのか。」こうした根源的な問いから話は始まった。
公共交通は単なる移動のためのインフラではなく、その土地の玄関であり、街の「顔」である。効率や採算性のみを基準に存廃を判断するのではなく、その地域の誇りや暮らし、将来世代にどのような環境を残すのかという視点で向き合う必要がある。公共交通の持続可能性は、街の賑わいや人の流れと深く結びついており、まさにロータリーの奉仕の精神をもって考えるべき社会的課題である。
デザインは見た目を整えるためのものではなく、課題解決のための手段であり、多くの市民を引き付け、社会に奉仕する力を持つ。建築家や設計者、デザイナーとは、現在の発注者の要望を満たす存在にとどまらず、未来の利用者や市民の立場を代弁し、社会全体にとって望ましい姿を構想する役割を担っている。
パリでは、コロナ禍を契機に「街は車に従うもの」から「街は人に従うもの」へと価値観が転換された。道路を公園へと変え、人が集い、大人が楽しむ姿を子どもたちに見せることで、街の魅力が高まり、結果として地価の上昇にもつながった。フランス東部のストラスブールでは、照明やデザインによって街にいる人をどう美しく見せるかという発想が根底にあり、都市全体を演出する視点が共有されている。
高知県四万十市中村では、公共交通施設を地域の象徴と位置付け、四万十ひのきを用いた駅づくりに取り組んだ。建築材として扱いにくい素材であっても、その土地らしさや物語を表現することに大きな意味がある。
また奈良県川西町の駅開発では、人口約7,000人の町で16回に及ぶワークショップを重ね、町民の声を丁寧に集める「参加・巻き込み型」の空間設計が行われた。
領域を超えて人をつなぎ、未来の暮らしを共につくる姿勢こそが、これからの建築とデザインに求められる役割である。
スピーカープロフィール

川西 康之氏
㈱イチバンセン一級建築士事務所 代表取締役
㈱イチバンセン一級建築士事務所 代表取締役、建築家、デザイナー 1976年、奈良県磯城郡川西町生まれ。10代から水戸岡鋭治氏の影響を受けデザイナーを志され、千葉大学大学院博士前期課程修了後、渡欧。デンマーク王立芸術アカデミー建築学校招待生を経て、フランス国鉄交通拠点整備研究所SNCF‐AREP勤務。帰国後2014年に㈱イチバンセン設立。主な作品は、土佐くろしお鉄道中村駅のリノベーション(ブルネル賞優秀賞、グッドデザイン賞特別賞2010中小企業庁長官賞等)、リゾート列車「えちごトキめきリゾート雪月花」(ブルネル賞奨励賞2025、グッドデザイン賞2016、鉄道友の会ローレル賞等)等 数々の作品で受賞されております。