
作曲家として仕事を始めて36年になる。音楽はどこから生まれてくるのかとよく問われるが、うまく表現できずに、自問自答を繰り返してきた。40歳くらいまでは、音楽は自分の日々の生きざまから生まれると信じて実践してきた。恋愛が調べの源かもしれないと思った時期もある。
40代になると、少し考えが変わった。私は職業作曲家だから必ず依頼者がいる。依頼者の思いを十二分に受けとめた時に初めて「いい曲が書けた」と思える。そういう経験を重ねるうちに、自分を取り巻くまわりの人たちの思いを受けとめた結果、岩代太郎というフィルターを通して、一つの調べが生まれている、と感じ始めた。
最も完成された音楽形式といわれる一つに、ベートーベンが確立したソナタがある。ソナタ形式は、「提示部」「展開部」「再現部」「終末部」という四つのセクションで構成される。音楽は時間芸術だから、より内容の濃い楽曲を追い求めた結果として、ソナタ形式に至ったのだろう。
私たちの人生も、言ってみれば時間芸術だ。生まれてから死ぬまでどんな人生を歩むか。人生という限られた時間を自分なりに意味のあるソナタに仕上げたいと思っている。
私は50代後半から、人生の締め括り方を強く意識するようになった。人生の「再現部」にさしかかった頃に東日本大震災が起こり、それが私にとって大きな転機になった。何か自分にできることはないかと真剣に考えた。
ベートーベンは晩年、「再現部」の終わりに「終末展開部」というセクションを加えた。初心にもどりながら「再現部」に入り、そこでもうひと工夫だけ、自分なりの新しい展開を加えようというのだ。私は今、人生の「終末展開部」にいると思う。
そのなかで、大きな幹となっているのは、数年前に立ちあげたNPO法人「オトブミ集~絆」の活動だ。さまざまな人に「命の尊さ」「生きる素晴らしさ」「志の大切さ」についてメッセージを書いていただく。著名な俳優さんに読んでいただき、そこに私が音楽を添える。これを、好きな時間に無料で聴けるように配信している。亡くなった大宗匠にも「いのちの価値」というメッセージをいただき、女優の斎藤由貴さんに語りをお願いした。ぜひ一度お聴きいただきたい。活動への後援も募っている。ご協力をお願いできれば幸いだ。
スピーカープロフィール

岩代 太郎 氏
作曲家
東京都出身。東京藝術大学音楽学部作曲科首席卒業、同大学院修士課程首席修了。映画「血と骨」「春の雪」「蝉しぐれ」「利休にたずねよ」「Fukushima 50」「キネマの神様」で日本アカデミー賞優秀音楽賞、「レッドクリフ」で香港金像奨最優秀音楽賞を受賞するなど、80作品以上の映画音楽を創作。今夏に公開された映画「開戦前夜」の音楽も担当。NHKの連続テレビ小説「あぐり」、大河ドラマ「葵 徳川三代」「義経」ほか多数を手掛けられ、東日本大震災の復興支援事業音楽プロジェクト「魂の歌」や、心に響くメッセージを、音楽に乗せて届けるNPO法人「オトブミ集~絆」など、社会貢献活動に精力的に取り組んでおられます。