例会プログラム

例会報告

「新時代を開く文化のちから―寛永行幸の屏風絵より」

2026年09月09日

スピーカー: 泉屋博古館 学芸部長/ 実方 葉子 氏

泉屋博古館は、住友家旧蔵の美術品を保存、公開する美術館である。《二条城行幸図屏風》が住友家に伝わったのは約300年前。作者も依頼主も明らかではないが、ほとんど開かれることなく守られてきたため、まるで今描かれたかのような生き生きとした筆致が残る。寛永行幸の姿を今日に伝える極めて貴重な作品である。

寛永3(1626)年9月6日、後水尾天皇は徳川秀忠・家光に迎えられ、二条城へ行幸された。5日間にわたり、豪華な料理や舞楽、和歌、能楽などでもてなされ、天守からの眺望も二度楽しまれた。本日9月9日は、400年前、天皇がまさに二条城で饗応を受けておられた日にあたる。

屏風は上下二段に分かれ、上段には堀川通を二条城へ向かう天皇の御鳳輦と中宮和子の一行、下段には中立売通を内裏へ参内する三代将軍徳川家光以下、武家の一行が描かれる。いずれも「一日晴」と呼ばれる、この日のために誂えた特別な装束をまとい、一人として同じ表情、同じ装いの人はいない。

さらに重要なのが、沿道を埋め尽くす見物人の熱狂である。中立売通の立派な町家や、堀川の上に設けられた二段の桟敷には、さまざまな身分や職種の人々が見物し、浮かれ騒ぐ様子まで克明に描かれる。行列から見物人まで、屏風に描かれた人物は実に3226人にのぼる。

寛永行幸は、徳川政権の安定化や朝廷との協調を図るとともに、都の文化資源を国家的に再編する試みでもあった。屏風は単なる記録ではない。都市のエネルギー、隊列の秩序や権威を伝え、金地の輝きによってその価値を視覚化する。文化の力を演出するメディアであり、「文化政策の可視化装置」なのである。

「文化は過去の遺産ではなく、未来をつくる技術」。文化によって新しい時代を切り拓いた寛永行幸とその精神は、今日の京都にも多くの示唆を与えてくれる。

現在、泉屋博古館では「寛永行幸四百年記念特別展 寛永行幸と花の都の文化びと」を開催中である。ぜひ本物の《二条城行幸図屏風》を前に、400年前の人々の息遣いと、新しい時代を拓く文化の力を感じていただきたい。

スピーカープロフィール

実方 葉子 氏
泉屋博古館 学芸部長

兵庫県のお生まれで、京都大学大学院博士課程単位取得退学の後、1997年より公益財団法人泉屋博古館の日本中国書画の担当学芸員として勤務され、住友コレクションやその鑑賞の歴史の調査に取り組まれています。これまでに高麗仏画展、木島櫻谷展、寛永行幸展などを企画してこられました。特に本年は泉屋博古館が所蔵される「二条城行幸図屏風」に描かれた「寛永行幸」~後水尾天皇の二条城への行幸から400年の節目を迎えることから、寛永行幸の意義や屏風に描かれた人々などについて、様々な場面で解説者としてご活躍です。