例会プログラム

例会報告

「ぼくが京都を終の棲家に選んだ理由」

2025年10月15日

スピーカー: ライター 永江 朗 氏

私は2011年から、東京の自宅と京都のセカンドハウスを行き来する2拠点生活を始めた。5年ほどして、終の棲家をどこにしようかと妻と話すうちに、京都に住みたいと思うようになり、昨年6月から京都市民になった。
京都を選んだ決め手はまず、時間がゆったりと流れていると感じたことだ。2拠点生活の頃、東京へ帰るといつも、駅で行き交う人たちが殺気立って急ぎ足で歩いているようにみえた。東京の暮らしには、自分でも気づかないストレスがあるのかもしれないと思うようになった。
京都は、都市のコンパクトさも良い。徒歩や自転車、バスで気軽に回れる範囲にあらゆる施設が揃っている。さらには、鴨川と三方の山々が、町の潤いになっている。都市空間と豊かな自然が両立している希有な町だと思う。
たくさんの神社やお寺、文化施設、大学も多い。豊かな文化資源に恵まれているのは、老後を過ごす町として理想的だ。三大祭はじめ、季節ごとのイベントが多いので退屈しない町でもある。
京都が本の町であることにもひかれた。私は1980年代から出版界について調べて書く仕事をしてきた。取材して回ったのは京都の書店が最も多い。特徴ある書店や老舗が集まっているのだ。店主が独自に本の品揃えをする「独立系書店」においても、京都は台風の目になってきた。大きな古本まつりが開催されること、古本屋の多さも魅力の一つだと思う。
定住して1年4カ月になる。改めて気づいたのは野菜と豆腐の美味しさだ。豆腐が美味しいのは、京都が地下水の上に乗っかった「水の都」であり、美味しい水に恵まれているからだろう。
京都でいろいろな人とつきあうと、何代にもわたる生粋の京都人は意外に少ない。外からやってきて、この町になじんでいる人が多いと知った。京都は決して閉鎖的ではないと実感している。
「学区」を中心とした、地域コミュニティのつながりは、強すぎず、疎遠でもなく、適度な距離が保たれている。日々の暮らしのなかで互いに「おおきに」のひと言を欠かさないのも、都として長く続いた理由のように思える。京都の生活には、小さな都市にたくさんの人が住むための知恵が詰まっている。これからも京都を楽しみ、ゆっくりと暮らしていきたい。

スピーカープロフィール

永江  朗氏
ライター

1958年、北海道旭川市生まれ。書籍輸入販売会社に7年間勤務した後、雑誌『宝島』『別冊宝島』編集部を経てライターに。出版界を中心に取材と執筆を行う。2008年~13年、早稲田大学教授(出版文化論)。2010年、上京区の古い家屋を購入して改装し、11年から24年まで東京と京都の2拠点生活を送る。24年6月、東京の家を手放して京都定住へ。 『週刊エコノミスト』『ミーツ・リージョナル』などに連載中。毎日新聞書評欄寄稿者。著書に『インタビュー術!』『そうだ、京都に住もう。』『茶室がほしい。』『四苦八苦の哲学』『セゾン文化は何を夢見た』『ときどき、京都人。』など。

例会アーカイブ

6月投稿なし
5月投稿なし
4月投稿なし
3月投稿なし
2月投稿なし
1月投稿なし