例会プログラム

例会報告

「AI時代の私たちと社会」

2026年07月29日

スピーカー: 同志社大学特別客員教授/ 元村 有希子 氏

NTTドコモ モバイル社会研究所が今年2月、生成AIの利用率を調査した。前年度の27%から51%に増え、過半数に達していた。AIが身近になったと実感している人は多いと思う。

私たちは今、AIの第4次ブームに直面している。2010年代の第3次ブームでは、ディープラーニングのできるAIが、囲碁やチェスでプロを負かして話題になった。第4次ブームでは、ルールがないところで自ら判断できる生成AIが登場した。

生成AIは、社会に良い影響ももたらす一方で、歓迎されない副作用を生み出す可能性がある。問題の一つは、情報源が全部ネットにあるから、情報に偏見や間違いが含まれる場合がある点だ。私たちがAIの出してきた答えを信じて、言論活動や情報発信に使えば、偏見や間違いを含んだ情報が広がってしまう。生成AIを導入して、いわゆる単純作業を減らすのは有効な使い方だが、それは失業者を増やす。貧困を招き、格差社会が広がる懸念がある。さらには安全性の問題、生成AIが膨大な電力を消費することから派生するエネルギー問題など、心配は尽きない。

2024年にノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏は「人工知能の父」と呼ばれている。その彼もまた、AIを倫理観なしに応用するリスクについて警鐘を鳴らしている。

AIにまつわる様々な問題をきちんとコントロールするには、社会全体の体制づくりが急務だ。だが、AIの進展が速すぎて、その準備が追いつかない。

生成AIはとても便利だが、自分はどこまでAIに任せたいのか、考えてほしい。ネット通販で買物をすると、好みに合いそうな他の商品を勧めてくる機能がある。そのうちにAIは「以前買った紅茶が切れる頃なので、注文しておきました」と言い始めるかもしれない。そこまでいくと、特定の商品だけが売れるアルゴリズムが働いていないかと疑いたくなるし、自分で選ぶ楽しみや自由が失われるような物足りなさも感じるだろう。

コスパやタイパを重視するだけでなく、「不便益(=不便だが、それが面白い)」という価値観で、ものづくりをしようという考え方も出てきている。

どういう価値観をもって、AIとつきあうか。AIはアシスタントであって、主役は私たちなのだと常に頭の隅におきながら、向き合っていきたい。

スピーカープロフィール

同志社大学特別客員教授
元村 有希子 氏

北九州市でお生まれになり、干支は「ひのえうま」とのこと。
九州大学教育学部をご卒業後、毎日新聞に入社され、科学記者として、ノーベル賞、科学技術政策や東日本大震災などを取材してこられました。科学環境部長、論説副委員長などを経て毎日新聞社を退職され、2024年春からは、同志社大学において、科学技術と社会をつなぐ「サイエンスコミュニケーション」を教えておられます。「科学目線」(毎日新聞出版)「カガク力を強くする!」(岩波ジュニア新書)など、科学が身近に感じられるご著書を多数執筆されています。
京都暮らしは3年目で、ご趣味は散歩、居酒屋、数独だそうです。