例会プログラム

例会報告

「iPS細胞の医療応用」

2026年02月18日

スピーカー: 京都大学iPS細胞研究所 所長・教授/ 髙橋 淳氏

iPS細胞研究の発展と医療応用の最前線について、基礎研究から臨床段階に至るまでの歩みが示された。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は「研究成果から医療応用を目指す」ことを明確なミッションとし、600名を超える研究者が再生医療の実現に挑んでいる。基礎と臨床を同一拠点で推進する体制は世界的にも特徴的であり、研究を社会実装へ結びつける構造そのものが強みとなっている。

iPS細胞は体細胞から作製される人工多能性幹細胞であり、自己複製能と多能性という二つの特性を併せ持つ。この特性により、増殖を続けながら多様な細胞へ分化することが可能となり、再生医療と創薬の両分野に革新をもたらしている。講演では「iPS細胞はじぶん自身である」という表現が示された。患者自身の細胞から作られ、培養皿上で病態を再現し、将来的にはじぶんの細胞で自分を治療する可能性を持つという概念は、従来の治療観を大きく転換するものである。

患者由来iPS細胞の活用は、動物モデル中心であった疾患研究の在り方を大きく変えた。脳オルガノイドは胎児脳に近い層構造を形成し、神経変性疾患の解明に新たな道を開いている。ALS研究では薬剤スクリーニングにより有望な候補が見出されるなど、創薬研究の効率と精度も飛躍的に向上している。現在もアルツハイマー病、FOP、遺伝性難聴など多様な疾患を対象とした研究が進行している。

さらに、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療の臨床試験が進められ、安全性と有効性の検証が段階的に行われている。発見から約20年を経て、研究は実験段階を超え、実際の患者治療へと着実に歩みを進めている。日本国内では複数のiPS関連臨床試験が実施されており、再生医療は現実の医療へと近づいている。

CiRAでは医学のみならず理学や農学など多分野の研究者が協働し、企業連携や若手育成にも力を注いでいる。iPS細胞研究は単なる技術革新ではなく、細胞を基盤とした新たな治療戦略の構築であり、日本発の科学が世界の医療を変革し得る挑戦であることが示された。

スピーカープロフィール

髙橋  淳 (たかはし じゅん)氏
京都大学iPS細胞研究所 所長・教授

1986年 京都大学医学部をご卒業後、1993年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。同年、京都大学医学部脳神経外科助手、1995年 米国ソーク研究所(Dr.Fred Gage) ポスドク研究員、2003年 京都大学医学研究科脳神経外科講師、2007年 京都大学再生医科学研究所 生体修復応用分野准教授、2010年 京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究分野准教授(兼任)、2012年 京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究分野教授、2022年 京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究分野 所長に就任され、現在に至られます。

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